「もしも」に役立つ「いつも」のつながり
私たち「むすびえ」では、地域ネットワーク団体を通じたこども食堂への支援の一つとして、防災についての取組「こども食堂防災拠点化プロジェクト」を行っています。 この活動の一環として、こども食堂防災研修を開催しております。今年度は、全国各地のこども食堂関係者の方たちと「防災」を通じた学びと交流を企画し、第13回14回は宮城県石巻市・名取市で行いました。
今年は、東日本大震災が発生してから12年を迎える年です。こども食堂に通う子どもたちの中には震災後に生まれた子もいます。2023年12月、地域ネットワーク団体の方と研修の打合せをしている中で、「辛い記憶だけど大切なことなので、子どもたちに伝えることが出来るように、みんなでもう一度再確認する機会にしたい」という想いをお聞きしました。そして研修の準備をする中で、能登半島大地震が発生しました。熊本の防災研修同様に、さまざまな想いが詰まった研修となりましたので、その様子をレポートいたします。
みやぎこども食堂ネットワークの想い
被災地ということで、今まではハード面(道路や建物)の復旧復興が主だったが、ハード面は落ち着いてきたように感じていて、これからは人と人で「改めて震災が起きたこと」に向き合っていきたいと考えています。
それは、綺麗な建物の街並みの沿岸部を見ても感じることであったり、内陸部は震災が起きた時、支援側に回った人も多かった事例もあり、地域によって防災意識の違いも感じるので、研修機会など、つながり、話すことで向き合っていけたらよいと考えています。
今回の研修は、防災マニュアルを使った専門的な学びの他に、現地で活動されている運営者さんにもお話しいただき、当時のことやこれからの課題を共有したいと企画しました。
と、みやぎこども食堂ネットワーク事務局の髙橋尚子さんからお話を伺いました。
2024年2月10日(土)
石巻市こども食堂防災研修の様子
研修の始まりは、石巻で活動されている特定非営利活動法人やっぺすの柏原としこさんより、石巻の当時と現状、感じている課題についてお話しいただきました
石巻地域には震災後に越してきた人達や、「震災」を知らない子どもたちも増えています。地域と関わりが少なく孤立されている方も少なくありません。
このような方たちにとって、こども食堂や、地域のサロン活動、コミュニティの場づくりが、地域の情報を得るきっかけの場になって、「地域を知ること」「地域の人たちと繋がること」が防災意識の向上につながっていくと考えております。
能登半島地震についても、「災害は時と場所を選ばない」とわかっているつもりでも、「まさか」元旦に起きるなんて…!と思われた方が多かったのではないでしょうか。
同じ様に、こども食堂を開催しているとき、災害が起きないとも限らないですし、拠点で活動していれば、そこを頼りにしてくる住民もいるでしょう。だからこそ、みなさんと一緒に、改めて防災のことを見直し、取り組んで行きたいと感じています。とお話しされていました。
また、やっぺすさんでは昨年、県の委託で地域防災の事業を行うなか、「地域防災」を町内会長や町内の防災担当者といった「誰か」だけに任せるのではなく、そこに住まう誰もが、「夕飯のおかず何にする?」と言うレベルと同じくらいの、日々の何気ない会話で地域防災について話したり考えたりができるようになったら良いと感じている、というお話をいただきました。
地域のこと災害のことを再確認しよう
講座パートでは、講師の防災コンサルタントMamoruwa代表 黒木淳子さんから、地域の特性や災害の種類にも目を向け、ため池や氾濫しそうな河川の有無、雪害や猛暑も災害級になっていることなどを挙げて、各自のこども食堂開催場所の周辺を再確認しようと呼びかけがありました。
ハザードマップを確認するのも、だれか個人がやるのではなく、スタッフみんなで一緒に確認し合うことの大切さも一緒に確認出来たと思います。
手軽にできる訓練
こども食堂開催日の調理中に火災発生!という想定訓練です。
大人役が役割分担して、消火や通報、避難誘導を行い、子ども役は緊急時の子どもを演じます。
慌ててしまう心理や、パニックで思うように避難できない子どもの心理を想像しながら、全員を安全に避難させるには・・・と気づきをたくさん得られたようですが、特に印象に残ったのが、参加者の方が「これは手軽にできる訓練だから、こども食堂を開催する前に必ずやると決めてやってもいい」と話されていたことです。
今回は火災編を実施しましたが、「地震の時はどうしよう?」「豪雨や浸水の時はどうしよう?」などと、災害の種類を変えて考えていきたいですね。
2024年2月11日(日)
名取市こども食堂防災研修の様子
名取市で人と人のつながりを大切に活動されている宇佐美久夫さんより、当時の体験を交えたお話しをいただきました
当時、宇佐美さんは、それぞれが助け合う避難所生活で、女性陣が炊き出し調理をする中、鍋をかき回す作業や、火の管理を担われたそうです。温かい食事は心がホッとするが、食べ慣れない味はストレスに感じ体調にすぐ影響する。「食」はストレスにもケアにも直結すると実感されたそうです。
そして被災した現地の救援・支援に入られた自衛隊は、3月の寒い気候の中、水で濡れた冷たい支援活動を毎日しているにもかかわらず、冷たい缶詰食を避難所とは別の場所で食べていたことを知り、炊き出しの女性陣が、少しでも一緒に食事をとるようにと根気強く話し続けたそうです。日が経ち、支援終了で自衛隊が撤退する頃には、避難所で隊員も含む全員が温かい食事をとれるようになったそうです。
奇しくも、当時名取市へ支援に赴いていたのが金沢の隊だったそうです。きっと今は能登の支援でがんばられているだろうと声を詰まらせておられたのが印象的で、隊員の方々への感謝の気持ちが溢れていました。
また、当時を思い返すと、心が痛かったり涙が出るけれども、不思議なことに、今、地震が来て津波警報が出ると、自分の命を守る避難よりも生活用品や家財道具を守ったり、移動しやすい避難を考えてしまう人が多いのも事実だともお話しされていました。
思い出すことは辛い事だけど、こうやって当時を語っていくこと、みんなが集まって思い出して話し合うことを続けなければいけないと感じているので、今日はとても良い研修になると思うし、今後も継続していきたいと想いをお話しいただきました。
むすびえ理事の渋谷も、震災当時は宮城県仙台市で被災した経験もあり、今回の研修に同席しました。「震災当時のことを思い返して、つながりは本当に大事だった。震災当時には無かったこども食堂が今はこんなにたくさん生まれているということがとても感慨深い。防災について、こども食堂のみなさんと一緒に学んでいきたい」と想いをお伝えしました。
「こども食堂防災マニュアル」を使ってコミュニケーション
大きな震災が起きた地域のみなさんなので、防災意識はとても高いと思いますが、ご自身のこども食堂でスタッフのみなさんと話をするときのコミュニケーションツールに、むすびえ発行の「こども食堂防災マニュアル」を活用してほしいと講師の黒木さんは伝えます。
地域の特性や防災備品のチェックリストに加え、室内の危険な場所のチェックにも活用いただけます。「スタッフみんなの共通認識という部分も防災では大切なので、ぜひ、みなさんでお話ししてみてください。」と、全員参加する防災をお伝えいたしました。
子ども同士の関係性も大切
訓練では、全員を逃がすことが大切だとわかっていても、顔の見える子どもの誘導に囚われて、全員避難できたのか?と気がつかない場面がありました。その時、子ども役の方が「お友達の〇〇君がいません!」と声を挙げたので、逃げ遅れている事に気づけた。というハプニングがありました。
このことから、参加者のみなさんは、子ども同士の関係性もとても重要だ。と気づきを得られていました。そして、この講座の内容は「こども食堂」という部分を地域の居場所に置き換えることも出来ると振返りされていた方もいらっしゃいました。
多世代が集う場所だからこそできる防災をみんなで考えるきっかけにしていただけると幸いです。
参加者の感想(アンケート抜粋)
- 大きな声は訓練が必要。実際に子どもたちと訓練したい。
- いつも会場は学校を使わせてもらっているので正直なところ防災についてあまり考えていませんでした。食数が多いので食中毒などのことばかり気にしていたが、この研修は全てのことが「あ!そうか」と思うことばかりで大変貴重な時間でした。
- 地域との関係づくりに更に注力したいです。避難所や緊急時の連絡先をちゃんと確認しておこうと思いました。
- 子どもたちそれぞれ個性があり、特性もさまざまなので、万一に備えどう対応するのか、消化器の使い方を学ぶなど、たくさんの課題に気づきました。
- 発災時に声出しの仕方(大きな声・短い言葉、繰り返す)や、行政が発信する正しい情報を受け取り伝えるなど、今後に活かしたい。
■イベント概要
開催日時:2024年2月10日(土)13:30~15:30
開催場所:石巻水産振興センター(石巻市魚町2-12-3)
講師:柏原 としこ(特定非営利活動法人やっぺす共同代表)
黒木 淳子 (防災コンサルタント/Mamoruwa代表)
開催日時:2024年2月11日(日)13:30~15:30
開催場所:下増田公民館(名取市美田園7-23-1)
講師:宇佐美 久夫(こども食堂ふれあいCafe)
黒木 淳子 (防災コンサルタント/Mamoruwa代表)
主催:みやぎこども食堂ネットワーク
内容:「もしも」に役立つ「いつも」のつながり
~こども食堂防災研修 IN 宮城県石巻市・名取市~」
協力:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ
「こども食堂防災拠点化プロジェクト」とは?
そこに集う人々の安全確保はもちろん、通常時だけでなく、有事の際にも地域の安心、安全な場として存在できるように、こども食堂の防災力を高めることを目的としています。
また、こども食堂の主体的な防災活動につながるよう、それぞれのこども食堂に「私たちに出来る防災」「地域みんなの防災」について考え・備える機会として防災研修や、さまざまな防災活動の支援提供をしています。
この活動を通して、地域における交流拠点(こども食堂)の認知向上と、つながりを再確認する機会の創出にも寄与しています。
こども食堂での防災研修、訓練をお考えの際は、是非ご相談ください。
本件に関するお問合せは、下記メールアドレスまでお願いします。
bousai@musubie.org(担当:森谷、久保井、和泉)