もしもに備える防災講座
私たち「むすびえ」では、こども食堂へ地域ネットワーク団体を通じた支援の一つとして、防災についての取組「こども食堂防災拠点化プロジェクト」を行っています。 この活動の一環としてこども食堂防災研修を開催し、今年度は「こども食堂防災研修2023全国ツアー」と題して、全国各地のこども食堂関係者の方たちと「防災」を通じた学びと交流を企画しました。第3回目は愛知県岡崎市です。むすびえ発行の“こども食堂防災マニュアル”を活用した防災研修会です。
なぜこども食堂防災研修の開催を決めましたか?
【主催:岡崎市社会福祉協議会こども食堂ネットワーク事務局の想い】
2023年6月の豪雨災害で市内の一部が浸水被害を経験しました。その時、災害ボランティアセンターが立ち上がりましたが、岡崎市で災害ボランティアセンターが立ち上がったのは15年ぶりだったので、多くの方にとっては初めての経験でした。日頃から研修や訓練をしていても、実際に運営してみると、さまざまな気づきがありました。そして、研修、訓練に加えて、日ごろからの関係性づくりが災害時に大事だということも改めて実感しました。
また、今までこども食堂運営者に向けて防災をテーマとした研修をしておらず、今回の体験をもとに、地域の交流が生まれる場所のこども食堂運営者むけに、こども食堂防災についての研修と交流の機会を設けようと考えました。
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講座では、むすびえのこども食堂防災研修で基本を学び、実際に防災に取り組まれている子ども食堂運営者の方に事例を聞き、トークセッションで意見交換ができる設計にしました。
それでは、研修の様子をご紹介します。
岡崎市社会福祉協議会事務局長の本間様のご挨拶からスタートします。
「岡崎市では昨年度の2022年度は14箇所だったこども食堂が2023年度10月の時点で27箇所に急増しており、地域交流が活発になっていることはとても嬉しいことです。このタイミングで、運営者同士のつながりを再確認する意味も込めて、この研修の機会を設けました」とのお話がありました。
< 講座・訓練パート >
もしもに備える防災~こども食堂と防災の関係~
講座は、防災マニュアルの「知る、備える、行動する」の3ステップで進みます。
まずどんな災害があるのか知りましょう。次にどんなものを備える必要があるかチェックしてみましょう。最後は、実際に動いて確認しましょうという流れです。
ステップ2の「防災グッズを備える」パートでは、100円均一で揃い、日頃から携帯できる防災グッズのご紹介があり、ステップ3の「実際に行動してみる」パートでは、街中にある公共設備の使い方などにも触れました。例えば、現代の子どもや若者は公衆電話の使い方を知りません。受話器?お金を入れる?何分話せる?・・・大人にとっての当たり前が、子ども・若者目線では違っていることに気づくことができるのも多世代交流の良い所です。講師は「ジェネレーションギャップがあるからこそ、若手と我々世代が得意な分野でサポートし合うことが大切です」と伝えました。多くの方に、「防災でも、こども食堂でもフラットな目線が大切だ」ということを感じていただけたと思います。
講座の最後は、災害時に活動したこども食堂の事例を紹介しました。
講師は自身の体験談として、2019年の台風被害の出来事を振り返り、避難所が開設されて避難してきた子どもたちとのやり取りの中で「日ごろの関係性があったからこそできたこと」をお伝えしました。
災害時の活動は、特別な事ではなく、日ごろの活動の延長線上にあることを、皆さんにお伝えできたのではないかと思います。
訓練では、こども食堂の開催中だったとイメージして、大人チームと子どもチームに分かれます。緊急事態発生!!「その時、何をしたらいいだろう」「通報時に伝えなくてはいけないことは何だろう」「子どもたちは全員逃がせたかな」「名簿が必要かな」・・・。さまざまな振り返りがありました。
< 事例紹介とトークセッション >
具体的な取り組みから「防災」を多角的に見る
【事例発表~子ども食堂での防災の取り組み~】
事例1. コミュニティカフェいちほし小町 月東 佳寿美 さん
★子どもたちの目線を大切にする取り組み★
多世代が集うコミュニティカフェを運営する月東さん。
楽しく通ってきてくれる子どもから高齢者までの皆さんのお顔を見ているうちに、食事の提供、健康確認、悩みごとの相談など、地域にとってこの居場所は、なくてはならない場所になっていることに喜びを感じたのと同時に、「災害時でも機能する施設運営をしないといけない」と大きな使命を考えたことが、防災に取り組むきっかけになったそうです。
そこで、月東さんは早速BCP(事業継続計画)※に取り組みました。
※自然災害等の緊急事態でも、損害を最小限にとどめ中核となる事業の継続方法や手段を取り決めておく計画のこと
「受援者はだれ?何人?」「支援者はだれ?何人?」「要配慮者は何人?」と計画を作成していく中で明らかになったのは、「災害時は子どもたちにも参加してもらわないと、居場所運営が成り立たない」ということだったそうです。
そこで、子どもたちが主体となって、子どもと大人を招待するこども食堂の運営から始め、今では、子どもや高齢者と幅広い方に参加いただく、参加者主体の防災イベント(体験会)を開催されているそうです。
今までに実施された防災イベント(抜粋)
マップをみて、地域探検(地図記号を学びながら地域を知る)体験
公衆電話/缶切りの使い方や、手話の会話体験
じぶんBox 作成 (被災時を考えてやってみる)
寄付いただく防災品を家へ持ち帰り、家族のことも考えるチャンス
非常食体験50食アルファ米を作ってみる
防災キャンプ など
今後の課題として
災害時に、近所にある市営住宅の住人がコミュニティカフェへ避難できるのかどうか、関心が高まっていることを感じるという月東さん。そのため、受け入れ態勢を整えるのとともに、災害時にどうやって支援物資を取りに来てもらうか、具体的なアクションを考えたいといいます。
そして、これからも、子どもたちの声をしっかりきき、子どもと大人が一緒に活動する関係性の継続が大事だと思っているということです。
事例2、みんなのこども食堂 小松 恵利子 さん
★保護者目線を大切にする取り組み★
小松さんは、2011年3月の東日本大震災時、福島県で被災されました。原発事故の影響が心配される中、ご実家のある岡崎市へお子さまと一緒に避難されたそうです。
岡崎市へ避難して、小松さんは、防災意識についてギャップを感じて驚いたといいます。
福島県では日頃からご近所の関係性も良く、コミュニティのつながりができていたので、被災時も必然的に支援の輪が出来上がっていたそうですが、岡崎市ではこのような場に出会えなかったそうです。
そこで「母子避難の支援」「高齢者避難の支援」から始めて、支援団体同士をつなげる活動をしたり、認可施設ではできないサービスを中心とした託児所を運営したりするなど、保護者目線を大切にした取り組みを、コミュニティの一員として実践されています。
また、ご自身の育児経験と被災体験から、防災で大切なのは「食事」「睡眠」「排泄」「安心して過ごせる場所」で、これは、子育てと同じだと確信していたといい、こども食堂と防災が最初からつながった事業を行っていたと、ご自身の活動を振り返りまりました。
小松さんは最後に、参加者にこんなメッセージを送りました。
『できるひとが、できるときに、できることをする。
防災って大変なことではなく、こうなったらどうする?と想像すること。
「つながる」ってことが未来につながるんです』
【トークセッションQ&A】
ファシリテーター:久保井 千勢さん(むすびえこども食堂防災拠点化プロジェクト/防災士)
パネラー:月東 佳寿美さん (コミュニティカフェいちほし小町)
小松 恵利子さん (みんなのこども食堂)
森谷 哲 (むすびえ/えまいまキッチン/防災士)
参加者からの質問
パネラーのみなさんへ質問
Q: こども食堂をやっているスタッフを「防災について取り組もう」と誘ったとき、乗り気になってもらう秘訣はありますか?
A:
小松さん:乳幼児の託児施設をやっていると、日々の活動で「あれ危ない!」「これ危険!」が至る所にあります。これが防災の視点になっていることが多いです。
月東さん:「あそぼうさい」と言っていますが、こどものあそびに「防災の視点」を盛り込むことで、いざという時の発想力につながっていると思います。
森谷:例えば、50食分のアルファ米をこども食堂で食べる機会を作ります。みんなで防災食体験をするなど、普段の活動に組み込むことでそれぞれが一つでも気づきを得られる機会をつくるようにしています。
ファシリテーターからの質問
Q: 月東さんへの質問 子どもたちとたくさんの防災活動をされていますが、そのアイデアはどこから来るのでしょか?
A: 多世代の課題が持ち寄れる場となるコミュニティ運営をしている特長を生かし、例えば、大人が子どもに町の歴史を教える際、「防災の街歩き」を加えたフィールドワークへ変化させたり、子どもたちと定期的に公園のゴミ拾いをしたりすることで、公園の設備の確認なども行えるようになります。
Q: 小松さんへの質問 こども食堂×防災で一番大切にしていることは何ですか?
A: 「食」が多世代をつなぐツールだと思っています。食べる行為を一緒にすることで、他愛もない会話からつながりができていきます。そしてそのつながりを災害時にも生かせるように「防災」の視点も持つようにすることです。
Q: 森谷への質問 2019年の災害時に避難所へボードゲームを持っていったエピソードについて。どんな思いでボードゲームをもって行きましたか?
A: 子どもとのつながり(目線)を大事にしていて、子どもから「ちゃんと話せる人」だと認識してほしいと思っています。どうやったらそんな人だと認識してくれるだろう?という問題は、自分が地域で活動を始めたばかりの頃に「どうやったら地域とのつながりってできるだろう?」と考えたときと似ていました。答えは、まず仲良くなることでした。
日常でも、地域活動でも、仲が良い人とはよく話しますが、これは防災でも同じだと思います。子どもたちには「ともだちになること」「仲良くなろう」が防災の第一歩だと伝えています。
参加者からの声(アンケートより抜粋)
・自分の住む街ではどう取り組んでいけばいいか、考えるきっかけになりました。
・”防災”と身を構えると、「何ができるかな?」と消極的になりがちでしたが、楽しくできることをまずスタッフ、子どもたちとやってみよう!避難訓練はやってみよう!と思いました。
・地域のつながりが大事、ゆるくつながることの大切さ。頑張りすぎないこと^o^V
・地域での避難所開設訓練や一泊とまり実地などをおこなってみたい。
・地域団体同士の横のつながりに力を入れていきたい。
主催団体の感想
いつ起こるか分からない災害に対し、こども食堂がどのように備えていくのか、とても分かりやすく教えていただける講座でした。防災について、何から始めたらよいか分からない参加者も少なくない中、「こども食堂防災マニュアル」を用いることで、やるべきことの明確化がされたように感じています。避難訓練は、さまざまな状況を想定しながらの訓練を通し、災害時、注意を払っておくべき点が整理できるなど、とても実践的な内容でした。
非常時に地域の人たちが力を合わせて対応するためにも、平時のつながりが大切であること、楽しみながら防災対策に取り組む大切さを再確認できる場となりました。
本講座での学びを基に、こども食堂×防災の取組みに一層尽力していきたいと思います。
貴重なご講演をありがとうございました。
■イベント概要
開催日時:2023年10月18日(水)13:30~16:00
開催場所:岡崎市社会福祉センター2F 多目的室
( 岡崎市美合町五本松68-12 岡崎市社会福祉協議会内)
講師 兼 訓練ファシリテーター:
森谷 哲(むすびえこども食堂防災拠点化プロジェクトリーダー/防災士 /こども食堂運営者)
久保井 千勢 (むすびえこども食堂防災拠点化プロジェクトメンバー/防災士)
内容:「もしもに備える防災講座~子ども食堂×防災~」
主催:岡崎市社会福祉協議会 子ども食堂ネットワーク
協力:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ
「こども食堂防災拠点化プロジェクト」とは?
そこに集う人々の安全確保はもちろん、通常時だけでなく、有事の際にも地域の安心、安全な場として存在できるように、こども食堂の防災力を高めることを目的としています。
また、こども食堂の主体的な防災活動につながるよう、それぞれのこども食堂に「私たちに出来る防災」「地域みんなの防災」について考え・備える機会として防災研修や、さまざまな防災活動の支援提供をしています。
この活動を通して、地域における交流拠点(こども食堂)の認知向上と、つながりを再確認する機会の創出にも寄与しています。
こども食堂での防災研修、訓練をお考えの際は、是非ご相談ください。
本件に関するお問合せは、下記メールアドレスまでお願いします。
bousai@musubie.org(担当:森谷、久保井、和泉)