認定NPO法人
全国こども食堂支援センター・むすびえ

一般社団法人ふらっとカフェ鎌倉
代表理事 渡邉公子さん
略歴:
横浜生まれ、鎌倉在住50年以上。高校家庭科教員等を経て、NPO法人鎌倉市市民活動センター運営会議事務局長・理事長を歴任。現在、一般社団法人ふらっとカフェ鎌倉代表理事、NPO法人游風理事長。
(前編はこちら)
5. なぜ鎌倉で広がったのか?
──行政との関わり方 ~対等な「協働」関係構築、何をしてもらえるかでなく何ができるか
渡邉さん:活動を始めた当初、困窮者支援の色合いが濃くなった時に、市役所の福祉部長から「これは行政がやらなければいけないよね」と言われたことがあります。私は「市民がやっても行政がやっても、どちらでもいい。市民がはじめたら、行政はどう市民をサポートするかを考えればいいと思う」と伝えました。その後、市が倉庫となる部屋を貸してくださったり、「ガバメントクラウドファンディング」を実施してくれました。
むすびえ:ふるさと納税を活用した資金集めですね。
渡邉さん:はい。最初に見せてもらった案内文が、寄付が集まりそうにない「お役所的」なものだったので、「これでは私も寄付しないわ」と言って、市民目線の文章に書き直しました。おかげさまで目標を大きく上回るお金が集まりました。また、市の予算だと単年度決算で、NPOへの支援金も3月末までに使い切らないと返還しなければなりません。市民からの寄付金が年度末でリセットされるのはおかしいし無駄遣いを生むので、私は「絶対に繰り越せるようにしてほしい」と交渉しました。指定管理料などの扱いも同様に、無駄に使い切るのではなく繰り越せるよう、NPOセンター時代から行政と交渉してきました。目の前に困っている人がいれば、必要だから、まず動いてしまうのが私の性分です。行政は計画をしっかり作ってからやっと実施になるんですが、「計画書が出来上がる頃には、その子はもう大きくなっちゃうよ」って私は冗談を言っています。

むすびえ:長年に渡り市の各種委員会で委員を担った経験と信頼が礎になっていそうですね。
渡邉さん:自分では意識したことはないですが、結果的にそうなっているかもしれません。私たちの世代はケネディ大統領の「国が何をしてくれるかではなく、自分が国のために何ができるか」という言葉を受けて育っています。行政に依存したり、役割を押し付けたりするのではなく、「対等なパートナー」と位置づけ、言いたいことを言いながら、「協働」の関係で付き合ってきました。市民と行政、どちらがやるかではないんですよね。今必要だと思うことをできる方がやる。そして、もう一方がどうサポートできるか/し合えるかを考えるのが大事だと思っています。
6. フードパントリー・配達も実施 ~玄関で一言「受け止める」だけでホッとしてくれる
渡邉さん:フードパントリー「手くばり足くばりプロジェクト(食料支援)」月1回も実施しています。「鎌倉スマイルフードプロジェクト」として鎌倉市フードドライブ事業と連携して月1回、複数の場所で配布しています。
現在は食料配達の需要も増えています。登録は60世帯を超え、配達が中心になっています。私は配達を重視しています。取りに来てもらうだけでは、その家庭の環境が見えないことも多いです。配達して、玄関先で一言二言会話をすることで、家の様子や親子の状況が見えるんです。

むすびえ:単なる配送ではない、いわゆるアウトリーチということですね。
渡邉さん:そうです。例えば、赤ちゃんが泣いていてお母さんがイライラしている時に、「泣くのは赤ちゃんの仕事だよ。泣き方をよく見てごらん?おむつかな、お腹すいたのかなって分かるようになるよ」と声をかけるだけで、お母さんがホッとする。高齢者の場合も、生存確認を含めて「来月まで元気でいてね」と約束して帰ってきます。 80歳を過ぎ、「もう死にたい」と電話をかけてきた女性がいました。私は彼女に、自分も同じ年の生まれであることを告げ、同じ時代を生きてきた二人の人間としての対話が始まりました。「人生予定通りにはいかないものよ」と笑い飛ばして、「来月までに何回外に出たか教えてね」と、小さな約束を交わしたら、訪問のたびに嬉しそうに回数を教えてくれました。行政の指導だと「月の給付金以内でやりくりしなさい」と正論を言いますが、人間はたまには無駄遣いもしたい生き物です。そこを受け止めながら一緒に考えていくのが、私たちの役割かなと思ってます。

7. 渡邉さんの哲学と健康・食育 ~自分が「楽しんでいる」と人を「巻き込める」
むすびえ:本当に精力的ですが、そのエネルギーはどこから来るのですか?
渡邉さん:楽しむことですね。楽しくなければ続かないじゃないですか。人のためというより、自分の健康のためでもあります。83歳になりますが、腰も痛くないし健康診断も受けていないくらい元気です(笑)。「体に聞く」ことを大切にしています。体が要求するものを食べる。最近は、お米の研ぎ汁で野菜を発酵させて食べていたら、後で韓国の「水キムチ」だと知りました。これがとても体に良いようです。

むすびえ:元家庭科の先生としての視点も生かされていますか?長年、生徒の自主性を引き出すことに真正面から取り組まれてきましたよね。
渡邉さん:そうですね。知識だけでなく、実践して健康であることを生徒に見せないと説得力がありません。今の若いお母さんたちは、料理の仕方を知らないことが多いです。ガスでご飯を炊く方法や、電子レンジしかない環境での調理法など、具体的な「生きるための術」を伝えています。電気が止まってしまった若者には、家にあった新品の卓上コンロを渡して、「お米はこうやって炊くんだよ」と一から教えました。「電子レンジしかないから」とじゃがいもを断った若者には、袋を使った「じゃがバター」の作り方を伝えました。彼は今や、私より電子レンジ料理の達人になりました。食材を渡すだけでなく、レシピや使い方もセットで伝えています。

むすびえ:配達は大変だと思いますが人手は足りているんですか?
渡邉さん:料理教室を長いことやっていて。最初は市に頼まれて始めた講座でした。受講者が続けてほしいと言うので、その後も個人で毎月開催しています。その受講生のシニア男性たちが、先生のためならと車の運転を申し出てくれました。ありがたいことです。ネットワークを使うのも手です。近くの女子大やNPOセンター時代の支援先の方々へ声をかけて色々手伝っていただいています。全部自分でやろうとせず、周りの人を巻き込むのがコツです。
8. 保育園でのこども食堂開催の可能性 ~「やらねばならぬ」でなく「できるときにできることをやる」
むすびえ:保育園を地域のコミュニティハブとして活用し、こども食堂を実施するアイデアについてどう思われますか?今、保育士不足や親の孤立などの課題がありますが、保育園が地域に開かれることで、保育士の働きがいや園の質の向上にもつながると考えています。
渡邉さん:それはとても良いことだと思います。以前は規制がありましたが、今は法の改正などで、保育園にも地域貢献が求められるようになり、やりやすくなっています。保育園には乳幼児とお母さんがいますし、そこに地域の高齢者が加われば、最高の多世代交流の場になります。
むすびえ:現場の先生たちは忙しいですが、大丈夫でしょうか。
渡邉さん:「毎月必ずやらねばならぬ」と決めないことが大切です。「できる時にやる」「休んでもいい」という緩やかなスタンスで始めれば、そのうち楽しくなって続きます。スタッフにとっても、普段の保育業務だけでなく地域とつながることで、自己肯定感や働きがいにつながるはずです。

9. 今後の展望 〜「積み重ね」を見てくれる人はいる。「持ち回り」で多様な人が回せるように
むすびえ:最後に、今後の展望をお聞かせください。
渡邉さん:おかげさまで鎌倉市では地域の皆さんからの寄付も多く、助けられている一方で、むすびえさんをはじめとした助成金も活用しながら、活動を広げています。いろいろな形の支えが重なって、今の活動が成り立っています。今は拠点となる事務所がないため、今後はしっかりとした拠点を作りたいと考えてきました。実は、これまで私たちの活動を見守っていてくださった個人の方から多額のご寄付をいただいたことをきっかけに、鎌倉市とともに拠点づくりが動き始めました。
そして、2026年1月7日に鎌倉市と協定を締結し、「旧諸戸邸保全活用事業」に参画することとなりました。明治時代の貴重な市保有の建物である旧諸戸邸を保全しながら、同じ敷地内に私たちの新たな建物(拠点)を整備し、多世代が集い、関われる居場所をつくっていく予定です。
むすびえ:それは凄いですね。これまでの活動の積み重ねですね。こども食堂には後継者に悩んでいる高齢の運営者も多いのですが、どうされていますか。
渡邉さん:後継者育成も進めています。「みんたべ協議会(みんなで食べる鎌倉協議会)」という、市内で食支援をする20団体と市内24以上のレストランと企業も協力し合う場を作りましたが、私がずっと代表をやるのではなく、1年交代で回すようにしています。ふらっとカフェの理事、スタッフには若い世代も大勢います。スタッフは、これまで食料支援を受け取られた方の中で、働き場所を探していた方を雇用して、仕事として担ってもらう形を作っています。これからも「ねばならぬ」ではなく、楽しみながら地域のみんなで支え合う活動を続けていきたいです。

10. おわりに
渡邉さんの活動の核心は、特定の拠点を持たないからこそ生まれた「自由に楽しむ発想」 と「自主的な取組姿勢」、地域のあらゆる資源を巻き込む 「多様な連携」と「伴走支援」にあるのではないでしょうか。彼女の哲学と実践から、私たちの地域に「みんなの居場所」を広げていくためのヒントを見つけていただければ幸いです。