認定NPO法人
全国こども食堂支援センター・むすびえ

一般社団法人ふらっとカフェ鎌倉
代表理事 渡邉公子さん
略歴:
横浜生まれ、鎌倉在住50年以上。高校家庭科教員等を経て、NPO法人鎌倉市市民活動センター運営会議事務局長・理事長を歴任。現在、一般社団法人ふらっとカフェ鎌倉代表理事、NPO法人游風理事長。
1. はじめに
こども食堂と聞くと、多くの方が「経済的に困窮する子どもたちに食事を提供する場」というイメージを抱かれるかもしれません。しかし、その本質は、単なる食事提供の場に留まるものではありません。子どもから高齢者まで、さまざまな背景を持つ人々が集い、食卓を囲み、つながり、支え合う。そうした「地域コミュニティのハブ」としての機能こそが、今、こども食堂に求められている最も重要な役割ではないでしょうか。
本記事では、この新しいこども食堂のあり方を体現し、驚くべきスピードと多様性で地域に根付かせた先進事例として、神奈川県鎌倉市で「ふらっとカフェ鎌倉」を主宰される渡邉公子さんの取り組みをご紹介します。
教会からお寺、カフェから元中華料理店、高齢者施設から保育園まで、渡邉公子さんは、鎌倉市内に24カ所以上もの多様な「こども食堂」の立ち上げを、まるで星座を描くように支援してきました。特別な拠点も潤沢な資金もなかった一人の女性が、なぜこれほど多くの人々を巻き込み、地域に温かい居場所の輪を広げることができたのか?彼女の言葉と行動から、私たちが社会と関わり、新しい一歩を踏み出すためのヒントと勇気を探ります。
2. 鎌倉中に広がる「こども食堂」の万華鏡 ~「多様な」人たちが「みんなちがう」こども食堂をつくっている
むすびえ:本日はよろしくお願いします。私たちは現在、地域にあるさまざまな施設──飲食店、高齢者施設、保育園、宗教施設など──と連携してこども食堂を広げていきたいと考えています。そうした場所には食事を作る機能や人が集まる場所がありますので。渡邉さんはまさに、そうした多様な場所での展開を鎌倉で多数実践されていますね(「みんたべ食堂Map」を見ながら)。現在はかなり数が増えていますね。
渡邉さん:今は市内24カ所以上に増えています。最初は8カ所しかなかったのですが、市が予算を出して地図を作ってくれることになりまして。8カ所では地図として寂しいので、コーディネートして数を増やしました。

むすびえ:この地図を見ると、本当に運営主体が多様ですね。
渡邉さん:ええ、例えば、「ふらっとカフェ鎌倉inソンベカフェ」と「こども喫茶」は飲食店でやっています。調理も食材集めも接客も慣れています。「常盤食堂そだてら」は、閉店した中華料理店を子育てスペースにすることで、地域の資源を無駄にせず新たな価値を生み出しています。
「おてら食堂」はその名のとおりお寺で、「楽食ごぱん」と「なかよし大船こども食堂」と「地域食堂ゆきのした」は教会でやっています。宗教施設が宗派を超えて地域の子どもたちのために扉を開いています。

「みつばちのわ」は保育園で、「ふかふか地域食堂」は学童で開催しています。子どもたちが日常的に過ごす場所が、さらに広く地域に開かれた居場所としての役割を担っています。「ふらっとカフェ鎌倉in二階堂」は高齢者福祉施設で、「笑ん座カフェ」は障害者就労支援B型施設でやっています。大量調理施設もありますし、見守りやケアのプロたちがいます。地図には載っていないですが、介護付有料老人ホームのSOMPOケアラヴィーレ北鎌倉でも月1回開催しています。

「きみえ食堂」は民泊施設で開催しています。おとな食堂も併設して地域の高齢者が交流するとともに、子どもたちとも触れ合っています。訪日客など宿泊する人も参加できます。
他にも、「やんちゃ食堂」は元子ども会会長が、「地域食堂みんなのちゃぶ台」は町内会も含めた地域のみんなで公会堂で運営しています。「にじニコ食堂」はPTAのお母さんたちが中心で、「いいねきっずかまくら」は元消防士さんが自然体験活動の一環としてやっています。

むすびえ:本当に多様なこども食堂が、さまざまな施設を活用して行われていますね。
渡邉さん:そうです。同じにしちゃうと面白くないじゃないですか。その施設・地域地域によって特性があるわけだから。小学校区ごとにあってほしいと思って増やしていきました。子どもが歩いて行ける距離にあることが重要ですから。ちなみに私の自宅近くの「稲村ガ崎」は、まだ正式な厨房がないので地図には載せていませんが、ホットプレートを使って子ども30人くらいを集めてやっています。そんなところも合わせると、子どもと食を真ん中にした居場所はもっとあるかもしれませんね。近々、24カ所以上へ拡大した地図へ更新する予定です。
3. なぜ鎌倉でこども食堂が広がったのか?
──「スモールスタート」と「伴走」~最初は5人からでいい
むすびえ:どうやったらこんなに多様なこども食堂が地域に広がるのでしょう。
渡邉さん:最初は「移動式」のような形で定休日に店舗を借りてやっていました。例えば稲村ヶ崎のフレンチレストランのシェフや、鎌倉駅前の味噌屋さんの協力を得て、場所を変えながら開催しました。
むすびえ:その際も渡邉さんが伴走されたのですか?
渡邉さん:はい、全部行きました。シェフに料理はお任せして、私は食材の寄付を募ったり、ボランティアさんを集めたりと、コーディネート役をしました。皆さん「拠点がないからできない」とおっしゃるのですが、実は場所なんてどこでもいいんです。公民館のような決まった場所に縛られる必要はなくて、鎌倉では保育園、お寺、レストラン、個人の家など、あらゆる場所で実施されています。

むすびえ:鎌倉は本当に多様な場所で広がっていますね。全国的に見てもこれだけ多様なのは珍しいと思います。
渡邉さん:それぞれにハードルはあるのですが、「やりたい」という人は沢山います。ただ、最初の一歩を踏み出す勇気や手伝ってくれる人が足りないんです。だから私は「大丈夫ですよ」と背中を押し、最初の3回くらいは現場に入って一緒にやる「伴走」をしています。「もう大丈夫ね」となるまで付き添います。
むすびえ:伴走があるのは心強いですね。やはり最初は不安ですから。立ち上げ初期の最も不安で不安定な時期に、経験者が隣に寄り添い、共に汗を流してくださるのは心強いですね。
渡邉さん:みんな最初から何十人も集めて盛大にやらなきゃいけないと思い込んでいるんです。でも、「最初は5〜6人から、地域の人が来てくれればそれでいいんだよ」と伝えています。一気に花火を上げて消えてしまうより、5人からでも一歩一歩広げていく方が良いのです。あと、何かを始めようとする人に対して、私はただ、「いいね、いいね」って言う。そうすることで、やりたいけれど踏み出せなかった人たちが始めるきっかけを作りたいと思っています。

4. なぜ鎌倉でこども食堂が広がったのか?
──鎌倉の「市民性」「自主性」「お互い様」風土 ~「フラットな関係」の「共生型こども食堂」
むすびえ:鎌倉は比較的富裕層が多い地域とされていますが、なぜこれほどこども食堂が広がったのでしょうか?
渡邉さん:鎌倉はもともと市民活動発祥の地のような土壌があります。関東大震災の際も、自分たちで鎌倉同人会というボランティア組織を作って助け合った歴史があります。「お互い様」の精神が流れているんですね。鎌倉には小さくても精力的に動くNPO団体がとても多いです。市がああしなさい、こうしなさいといわなくても、市民がNPO団体をどんどん運営をして、長く続けていくというのが、大正時代から続く鎌倉の市民活動です。行政に頼るのではなく、市民ができることをやる。その上で行政とどう協働するかです。

むすびえ::市民意識の高さがあるのですね。
渡邉さん:それと、私たちが目指しているのは「共生社会」です。困った人だけを集めると、そこに来ることがレッテルになり、発展しません。いろんな人が来て、余裕のある人は寄付をして、みんなで助け合う関係が重要です。「フラット」な関係でお互いの尊厳を守る、それが私の考えです。支援する側とされる側を分けることなく、みんなで和気あいあいと交流するよさがこども食堂にはあります。鎌倉では、お家が立派でも困窮している人がいたりします。健康や収入や家族関係など生活環境の変化によって困窮してしまうケースです。離職や病気や介護などはどの家庭にも起こりうることです。
(後編「5. なぜ鎌倉で広がったのか?──行政との関わり方」に続く)