いよいよ感染症に対する規制が緩和され、各地から「そろそろ会食再開を…」という声が聞こえてくる一方で、一歩を踏み出すことに戸惑いを感じておられる方も多くいらっしゃる現状です。今回はこども食堂における「会食」が地域でどんな役割をもっているのかというお話を、鹿児島県の離島(沖永良部島・与論島)の2つのこども食堂さんに伺いました。
また、合わせて「特定非営利活動法人鹿児島県こども食堂支援センターたくして」の園田さんにもネットワークとしての関わりについてお話を伺いました。
🔳コロナの影響の経緯
― すでにコロナ感染症が広がっている中でこども食堂を始められたということですが、周囲の声や施設の問題はありませんでしたか?
<おむすび屋スマッピー 新納さん(沖永良部)>
まずカフェを2022年2月にスタートしました。こども食堂を開始したのは2ヶ月後の4月です。
最初から50人くらいが集まったのですが、施設が広いため密集しなくて済みました。
普段からコミュニティスペースとして開放している場所なので、人が来なかった時期もありましたが、こども食堂を開催する頃はコロナも落ち着いていたので、久しぶりにみんなが集まってお喋りする事ができてうれしかったです。
病院跡地をリノベーションした施設を利用しているので広さは十分にあり、個室もあるので、みんなが分散して過ごすことができています。
その施設を利用できるようになった経緯ですが、私は元々2021年の4月から子育て支援のための活動をしようと思っていたので、まず最初に町民支援課に相談にいきました。その際「町のものを個人に使わせることはできないが、NPOを立ち上げて使ってない病院を活用してはどうか」という提案をいただきました。ちょうど病院の持ち主が知り合いだったので交渉はスムーズに進みました。施設自体は病院が廃業したままの状態で残されていたので、使えるようにするには清掃などとても手はかかりましたが、身近な方とのつながりで施設を借りることができたことは、沖永良部のような離島のいいところだと思います。
<島想会こども食堂笑人達(わらびんちゃー)福さん(与論島)>
うちは場所が狭いのですが、店の前に広いスペースがあったので、支援を受けてテントを6梁購入しテントを設営して会食をしていました。テントのおかげで風通しも良く密も回避することができました。
― その際、感染症対策で気をつけていたのはどんな事ですか?
<おむすび屋スマッピー 新納さん(沖永良部)>
密集を避け、座る場所などは分散するよう心掛けました。
持ち帰りにも対応したスタイルだったので密になっている印象はありませんでした。
あとは窓を全開にし、入口での検温と消毒は徹底、スタッフが常に手洗い場とトイレを綺麗にするのを心がけました。
<島想会こども食堂笑人達(わらびんちゃー)福さん(与論島)>
はじめはテントで会食をしていましたが、コロナの感染者数が増えてきてからは、様子をみて弁当配布形式に切り替えていきました。
すこし感染者数が落ち着いてきてから、子どもたちの方から「ここで食べたい」という声もたくさんあったので、またテントをいっぱい張って会食を再開することにしました。
お父さんたちがとても協力的で、天候に合わせて臨機応変に対処してくれるのでとても助かっています。
こんなふうにワイワイしながら準備したり、みんなで食事をしたりすると、食べに来る人もスタッフも一緒に笑顔になっていくんですよね。
その様子をみていていると「一緒に食べることに意義がある」と強く感じるので、今後も続けていこうと思っています。
🔳会食形式でやってよかったこと
― あえてコロナ禍であっても、「会食」にこだわった背景を教えてください
<おむすび屋スマッピー 新納さん(沖永良部)>
離島には転勤族がたくさんいるんです。
鹿児島県の県職員や学校の先生は大体2、3年の周期で家族と一緒に転勤してくることが多いので、はじめはお母さんや子どもたちがその場に馴染むのが大変なんです。
うちは、会場の隣に遊具施設があるため、そこに子どもを連れてきて遊ばせているうちに面識のない人同士でもふとした事で会話が生まれ、話す機会がなかったお母さん同士がつながる機会になっているなと感じています。
就学前の子の保護者と小学生の保護者が情報交換をしていたり、違う学校に通わせるお母さん同士が各々の学校の話をしたり、環境や年代を超えた情報の共有が生まれるのを見て、いいな…と思っています。
そのうち、「制服のお下がりあるからあげるよ」みたいなやりとりも自然に発生してきてコミュニティが生まれたりもしています。
また気軽に来てもらいやすいよう、「ヨガ教室がありますよ」「無料でご飯も提供していますよ」というような声かけもしています。
<島想会食こども堂笑人達(わらびんちゃー)福さん(与論島)>
与論島には都会から嫁いで来たお母さんが多いので、友達を作るチャンスも少なく、孤独を感じている人も多いのですが、ここにくると自分の家と仕事と家族だけだったという方も、友達の輪が広がると喜んでもらえて本当に嬉しいです。
またおじいさん、おばあさんも参加しているので3世代にわたる交流の場所にもなっています。
みんなでワイワイしながら「やっぱりみんなで集まって食べるのがおいしいね」って言いながらスタッフも一緒になって笑顔になる。それを見ているだけで嬉しいですね。
⬛️ネットワークとしてのこども食堂への働きかけ
― 会食に関する県内の状況を教えてください
<鹿児島こども食堂支援センターたくして 園田さん>
2022年8月17、18日と、2023年2月21、22日に和泊町のおむすび屋スマッピーさんにお邪魔したのですが、そこは「公園みたいに誰でも入れて、みんなで食べて、みんなで子どもを見守る場所」になっているなと感じました。
場所も広く、公園みたいな気軽さと敷居の低さ、居心地の良さがあって、程よく距離をとりながらみんなが子どもたちの様子を見守っている感じです。
スマッピーさんがこども食堂をスタートしたのは2022年4月ですから、短期間で地域に定着しているのが印象的でした。
その理由は、島という小さなコミュニティーの中で強いニーズがあったからだと思います。離島という限られた人間関係の中で広がった、「コロナによる閉塞感」は他の地域よりも強いストレスとなっていたと思いますが、ここのように、誰でも来ることができて一緒にご飯を食べることができる場所があるというだけで、与論や沖永良部のような小さな島の皆さんにとってありがたいことだと思います。
2023年2月に伺った時に、赤ちゃんを抱っこしたお母さんがこども服を並べていたのですが、「お下がりをもらうための洋服を選んでるんですか?」とお聞きしたところ「いいえ。こども服を分けて並べるボランティアとして参加しています。とてもやりがいを感じています。」と話してくださいました。
このような生の声を聴けるのは、まさに対面ならでは。
ネットワークとして「対面がいいですよ」という方針を出すのは難しいのですが、こども食堂側の「自分たちだけでは決められない」という気持ちもわかります。
世間の目とやりたい気持ちのはざまで、対面での会食を再開するきっかけをつかめないところも多いと思います。
こども食堂が「地域のコミュニティの場」としてどのように役割を果たしているのかなど、各地を見に行って、その様子を発信することで、迷っている人の背中を押すことにつながればいいなと思っています。
🔳今後の予定
― コロナの状況も変わってくる中で、今後どのような活動を予定されていますか?
<おむすび屋スマッピー 新納さん(沖永良部)>
沖永良部では、こども食堂を運営している方や、活動に興味がある方が集まってネットワークを作ろうという動きが始まりました。
移動式こども食堂をやってほしいという声があったのですが「うちではできないな」と話をしていたところ、他のこども食堂が移動式こども食堂をやっているという話が耳にはいり、すぐに連絡をとりたいと思いました。
お互い存在は知ってはいたのですが、スタイルの違いもあって接点を持つきっかけがありませんでした。そこで「かごしまこども食堂支援センターたくして」の協力で2つのこども食堂をつないでいただき、今後はお互いに連携を取っていこうという流れになりました。
移動式の活動をされているこども食堂はスタッフの年齢層が比較的高く、SNSを利用して支援の情報を得たりするのは苦手というお悩みがあるようでした。
今回、私たちとつながったことで 「SNSで食材提供などの情報が入れば流します」というような連携を取れるようになりました。
逆に、私たちは「スタッフに子育て世代が多く、積極的なコミュニティへの参加が家庭の負担になる」という問題を抱えていましたが、連携することで幅広い世代の方と仲良くなり、お互いに助け合いができたらいいと思っているところです。
フードバンクもできたのでこれからもっと取り組みが広がるのではないかと思っています。
社協の方と打ち合わせをして、どんな感じになっていくかをイメージしながら、定期的に集まる方向で話が進んでいます。
「生活困窮」と言われているような人たちは移動手段が限られているので、場所が遠くなると来ること自体が難しいのですが、移動式であれば各地区の公民館を回るのでそこをカバーできます。
また、うちは塩むすびとお汁を毎日出して提供しているのですが、今のところ来てくれる子はいつも同じ顔触れです。
場所が小学校と中学校のちょうど中間地点にあるので、今後は放課後の帰宅途中や、部活前の時間に立ち寄る中学生が増えればいいなと思っています。
<島想会こども食堂笑人達(わらびんちゃー)福さん(与論島)>
私たちも移動式の活動をしていきたいと考えています。
今、会場として使用している場所があまり広くないため、家族連れで来ることが難しい状況にありますし、「他の集落にも必要な方々がいると思うが、届いていないのではないか」という気がしているからです。
各校区の公民館にテントを張るスペースを借り、車で配達していくように移行することによって、「本当に届けたいところに届く」のではないかと思ってます。
日頃は週2回、おにぎりとおかずを作って、学習支援のところに提供しているのですが、他にもそのお弁当の情報をLINEで提供して、本当に欲しいところに届くようにしていき、少しずつ広めていけたらいいなと思っています。
⬛️会食への想い
<おむすび屋スマッピー 新納さん(沖永良部)>
離島という環境もあると思いますが、わりとうちは会食が当たり前という感覚が強いと思います。
会食だと顔を見て声の様子でわかることも多いので、できる限り会食をしたいと思っています。
<島想会こども食堂笑人達(わらびんちゃー)福さん(与論島)>
お弁当テイクアウトは便利ですが、ご自宅に持ち帰ってしまうので、もしかしたら「孤食」というケースが含まれているかもしれないと気になっています。ぜひみんなで向き合ってお話をしながら会食ができるように状況を整えていきたいと思っています。
<鹿児島こども食堂支援センターたくして 園田さん>
こども食堂は食事を提供するだけではなくて、子どもたちに ‶だんらん” の場を作ってあげるという意味があると思います。
お弁当配布がダメとは思わないですが、多くの人と関わる機会を作ったり、関われる1人あたりの時が増えることで、 地域の人の顔が見えてきて、声かけをしやすかったり、SOSをキャッチしやすくなるのだろうと思います。
これからも、災害にみまわれたり新たな感染症が出てきたりするかもしれませんが、機会をみつけては交流の場をもうけ、しなやかな地域をつくるきっかけの1つとして、こども食堂を続けていけたらいいなと思っています。
今回のコロナのように困難な状況に直面しても、みんなが工夫してつながりを絶やさなかったということを、これからも忘れず語り続けるのは大事な事だと思います。
こども食堂が地域づくりに参加するきっかけになっている方もいると思うので、担い手側、参加者側という入り口は違っても「こども食堂」というひとつのコミュニティで交流し、みんなでたくさん関わって、みんなで住みやすい地域を作っていくという意味もあると思います。
コロナ禍を経て、「会食はただの娯楽ではなく生活の中になくてはならないものなんだ」とみんなが気づき始めたのではないかと思います。