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【レポート①】Withコロナのこども食堂 〜奈良県編〜

新型コロナウイルス感染症の流行が始まって、3年。現在第7波が落ち着きを見せ、第8波の流行を懸念する声がささやかれている状況の中、各地のこども食堂の現在の様子を地域ネットワーク団体の方にご協力いただき取材させていただきました。
今回は奈良県社会福祉協議会の岡本課長、足利係長にお話を伺いレポートします。

岡本課長、足利係長

☆現在こども食堂は奈良県内に何箇所ありますか? 

ネットワークが2017年に設立をした際は19箇所でしたが、2022年10月時点で94箇所です。

☆そのうち会食をしているところは何箇所ありますか?

直近の把握では会食再開をしたところは38箇所(4割くらい)ですが、感染状況の波に影響は受けている感じです。

☆会食をしたい希望はあるものの、再開できていないところは何箇所ありますか?

感染症対策で悩んでいるところが2021年で5割を超えており、会場制限で開催出来ていないところが3〜4割です。

☆どんな理由で会食再開を躊躇されているのでしょうか?

・感染症対策が難しい。
・やる気はあるが会場の利用制限のためできない。
・スタッフ、ボランティア内で意見が割れて、再開に踏み切れない。

等が主な理由です。


再開ができている団体と、再開ができていない団体、どちらも同じような悩みを抱えています。背景には周囲からの「公共施設が使えない状況で、こども食堂もやるべきではない」という声もあるようです。ただ2020年度では8〜9割が「会食」を休止しており、その時よりは復活はしてきていると思います。
また資金不足の問題については、様々な助成金を活用している団体では一部解消してきていますが感染対策などの経費の負担はあります。

☆会場は今でも使えないところが多いのですか?

自治体によって差が大きいですね。場所は使えるけど食べるのは不可のところ、制限なしの所もあります。全体としては会場の使用制限については緩和傾向にはあると思います。ただ、会場はあっても人を集めにくいという問題は残っています。会食を実施する事に対する周囲の目も気にする方もいます。「感染を広げようとしている」と思われたりしないか、といったことを気にされています。

☆奈良県の一般の飲食店の状況は?

普通に営業されています。店内ではマスクを取って食事をしていますし、奈良県だけが厳しい感じではないと思います。感染者数は大阪の10分の1程度ですね。ただ、地域差はあります。どんどん感染者が出ている都市部に比べると、感染者が少ない地域では、もし感染すると目立ってしまうなど、感染症に対する意識に差があります。

☆地域ネットワーク団体としての業務・役割活動を教えてください。

奈良県社協の取り組みとしては「奈良こども食堂ネットワーク」と県委託の「奈良こども食堂サポート事業」の二つの軸で動いています。
「奈良こども食堂ネットワーク」の方はネットワークの世話役10団体のうち、こども食堂が7団体、奈良県社協、奈良県生活協同組合連合会(以下 生協連)、ならコープのサポーター3団体が一緒に運営しています。生協連と奈良県社協が共同事務局という形をとっていて、会員さん向けの情報発信をしています。
もう一つは県の委託事業の「奈良こども食堂サポート事業」です。こちらは3年前からですが、専任の「こども食堂コーディネーター」1名が配置されています。主にこども食堂さんへの必要なサポートとして立ち上げ支援や、継続していく中でのお悩みに対する支援を行っています。
また、こども食堂が広がっていくために必要な環境整備もしています。具体的には協力企業の拡充、フードロス削減を目指したフードバンクとの連携、地域ネットワークづくり、こども食堂認証制度促進に向けた協力などです。

☆こども食堂の運営者がたくさん集まっていて、奈良県社協さんが事務局としていろんな事務の作業をやっていくれているというイメージですか?

そうですね。ネットワーク活動の検討や交流会、PR機会の当日運営は、生協連や世話役団体みんなで取り組んでいます。日々の事務的なことは奈良県社協で行っています。

☆それは本当にありがたいですね。運営する方たちも忙しいのですごく助かっているのではないかと思います。

●繋がりを作る役割
コロナ禍でこども食堂が抱える悩みに深刻な事案が増えている中で、地元で顔の見える関係ができるよう(こども食堂だけではなく行政・社協・支援団体なども含めて)緩やかにつながっていく場面(情報交換会など)を作る取り組みもしています。そこを通じて地元の行政の方たちと繋がりができることで、何か特定の子どもさんの事で気になることがあった時に相談できるという関係性も大切なので情報交換会は大事ですね。
繋がりができたことで、市内の5、6団体が連携して一緒に食料支援の活動をしようという取り組みをされたところが1箇所ありました。お互いの活動を知り合いながら協力しようという気持ちから始まり、今は市単独のフードバンクををたちあげました。
もう1箇所は、市内のどこに何があるかというのをリストアップし、お互いを知り協力し合おうという取り組みをされているところもあります。
また。市独自で補助金を創設したところもあります。
このように市内で独自のネットワークをつくっているエリアもありますが、市町村ごとだと差が大きく、特にこども食堂が少ない町村部が多いので、顔の見える関係づくりは県域でも継続している状態です。39市町村の中でも市部が少なく12市部しかないので、まだまだ複数のこども食堂同士が地元で連携し合うという状況にはなっていないのが現状です。

☆こども食堂の会食への抵抗感をどのように感じていますか?

●「会食」に対する思い
奈良ではコロナ禍の3年間でこども食堂の数が大幅に増えましたが、「会食」に対する思いについては、コロナ前から会食前提でこども食堂をしている団体と、コロナ禍で立ち上げし、配食やパントリーのみの活動で始まった団体では違うように感じます。
コロナ前から活動していた団体は会食への「思い入れ」がよりが強いと感じます。代替活動として配食をすることで個別に見えてきた子育て世帯の実態や困りごともありますが、やはりコロナ前から会食形式でやっていたこども食堂さんからは、「やりたいのは会食だ」という声が聞こえています。
コロナ禍ではじめた団体は、最初から会食ができる状態ではなかったので、どのような形であれ、とにかく子どもたちの役に立ちたいという思いが一番にあるので活動形態そのものに、そんなにこだわっていないという団体もあると思います。何が正解ということはありませんが、改めて「会食をやる意味」ということは、互いに伝え合って行ければと思っています。
みんな心が揺れているのだと思います。ただ、他の人がどう考えてどう思うかを知ることで気持ちが固まっていく時もあります。迷いがある団体も生の声をきくことによって背中を押されることもあると思います。

こども食堂ネットワークを立ち上げた当初からのパンフレットなのですが、活動している方の言葉をつないで作りました。こども食堂とは「居場所を作ることなんだ」っていうのは当初からみなさんがおっしゃっていたことで、そこは大事にしていきたいです。また大切にしてる4つのことがあります。

この4つの事は、社協から皆さんに伝えるというのではなく、運営者みんながお互いに大切にしていることとしていつも再確認しています。例えば、あったかいご飯を囲んだら距離が縮まるよね、とかいろんな人の価値観と出会えることがすごく大事だね、とかその他大勢の一人ではなく、自分という存在に目を向け、声をかけてくれる人がいるって大事だね といった感じです。たとえ月1回だとしても、そういう関係性をつくることで、小さな変化に気づける存在になりうるのではないかと思っています。

いきなり「困った時に気づき受け止めること」を実現しようとしてこども食堂を始められる団体さんもいらっしゃいますが、まずは関係性作りだとベテランの運営者さんはおしゃっています。その関係性を作っていく上でも、「会食」の役割は大きいし、こども食堂の本質ではないかと思っています。

☆こども食堂ネットワークとして大切にしていることは何ですか?

団体相互の繋がりの場を作ることを大切にしているので、年に1度はこども食堂実践団体の交流会という形で他の団体との意見交換の機会を作っています。形式は対面型にしており、直接会って肌感を伝えたいという意図を含んでいます。(ただし遠い地域やコロナの関係もあるので一部ハイブリットとなっています)そこではこども食堂さんが抱えているお悩みや、他のところはどういう風にしているのかなということを顔を見合わせながら話し合っています。
直近では93団体中、30団体強の集まりがありました。寄贈品分配もするなど、集まるきっかけを大切にしています。(文房具や食券などもありました)ただそこに集まったひとだけが情報を得られるということではなく、メールを通じて写真等含めて参加できなかった方にも情報が伝わるよう発信しています。
こども食堂に対する偏ったイメージ(貧困対策だけ等)をできるだけ払拭してほしい、という声も多く寄せられるため、県社協のミッションとして近くにこども食堂がない地域には、特に出向いて話をするようにし、活動しやすい雰囲気作りにも取り組んでいます。

☆最後に皆さんにお伝えしたいことがあれば教えてください。

「こども食堂と言えば会食」というイメージは、多くの人が共通して持っていると思います。「会食」を否定する方はおらず、多くの団体では「やれたらいいな」と思っていらっしゃいますが、コロナ禍の制約のなかで「まずは、やれることを、やっていこう」というのが実態かと思います。そういう意味で「会食」の実施については、温度差もあるし、なかには「会食型」ならではの準備は未知で想像がつかないという声もあります。
一方で、こども食堂では、「困ったときに、受けとめること」ができる存在であろうとしています。「困っている」状態は、行政や相談機関が全て把握できているわけではなく、ある日突然に生じてくることも多いものです。困っている子どもたちへの「気づき」は、あたたかなご飯を囲みながら育んだ関係性に根ざしていると感じます。
こども食堂という居場所のもつ意味や価値を、こども食堂の運営者、これから活動したい方、応援したい方など多くの方にエピソードを交えてお伝えすることで、その輪を広げていきたいと思います。

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