2024年10月25日、東京ビッグサイトで行われた「GOOD LIFE フェア 2024」のステージに、むすびえ理事の三島理恵が登壇しました。
「ウェルビーイングアワード 2024」において、活動・アクション部門グランプリを受賞したことから、今回のステージにお声がけをいただき、魅力的な出演者の皆さまとお話をしました。
会場には多くの方が訪れ、ウェルビーイングについて、こども食堂について、むすびえからのメッセージをお伝えしました。
【タイトル】
「多様な幸福に向き合う、ウェルビーイングな取り組みと社会 ~ウェルビーイングアワードに込めた想い~」
【出演】
知花 くららさん(モデル/俳優)
宮田 裕章さん(ウェルビーイングアワード審査委員長/慶応義塾大学医学部教授)
大高 香世さん(ウェルビーイングアワード審査委員/博報堂研究デザインセンター 100年生活者研究所所長)*ファシリテーター
三島 理恵(ウェルビーイングアワード2024グランプリ受賞団体「全国子ども食堂支援センター・むすびえ」)
ステージの様子をレポートします。
大高さん:
WHOでは「ウェルビーイング」とは「心や体、人や社会とのつながりが良い状態にあること」と規定しています。
現在3回目のエントリーを受付中の「ウェルビーイング・アワード」は、多様化する幸せに向き合い、その結果生まれた商品やサービス、その中でも優れたものを表彰して世の中に広めることで、ウェルビーイングの輪を広げることを目的としています。
「ウェルビーイングアワード2024」でグランプリを受賞した「むすびえ」より、活動紹介をお願いします。
◆ ウェルビーイング(=ごきげん)に欠かせない「居場所」が地域にあたりまえにある社会を目指して
■ 三島(むすびえ):
むすびえは「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる。」をビジョンに、こども食堂という地域の居場所を広げ、つながりづくりを行っています。
地域の「居場所」はウェルビーイングに欠かせないものだと思っています。
●居場所の数が多いほど、子どもの自己肯定感やチャレンジ精神が高まる
●自宅 + 自宅以外の居場所があるという人は、幸福感が高い
といった調査結果は多数報告されています。
コミュニティの基礎・土壌になる「居場所」(IBASHO)を表す英単語はなく、輸出できる概念だと考えています。世界的に孤独・孤立が課題になる中、「居場所」が注目されており、海外から視察に来られる方も増えています。
むすびえが行った調査では
●こども食堂への参加回数の多さ、参加期間の長さと、こども食堂への安心感、他者への信頼感の高さが有意に相関する
●参加期間が1年以上と長い場合、こども食堂に「困ったときに助けてくれる人がいる」と感じている子どもが相対的に多く、保護者の回答でも同様の傾向にある
ことが分かりました(※2023年度「こども食堂への参加者の変化を捉える定量調査」https://musubie.org/news/9194/)。
私たちは、そうした「居場所」が地域にあたりまえにある社会を目指しています。
こども食堂は全国で9,132か所、年間利用者は延べ1,584万人(2023年度)にものぼります。
こども食堂は、地域に暮らす人たち、ローカル・グローバル企業や団体などからの様々なご支援に支えられています。むすびえは、こども食堂と支援者をつなぎ、たくさんの方が未来をつくる活動へと参加できるよう、この活動を支援しています。
むすびえでは「Well-Being」を「ごきげん」と訳しています。
私たちの活動は、ごきげんな人・地域・社会をつくることだと思っています。
私自身がはじめてこども食堂を訪れたのは、子どもが小学生の時でした。大学生のお兄さんたちが遊んでくれて、みんなでかき氷を作った帰り道、息子が「ママ、こども食堂ってたのしいね」「みんなで食べるってたのしいね」と言ったんです。
子どもも大人もウェルビーイング=ごきげんに過ごせる。そんな場所、活動を広げていきたいと思っています。
◆ 「つながり」が世界的に希薄な今、地域の「つながり」が生まれる「こども食堂」
大高さん:
「こども食堂」で「食べること」がしっかりした体作りにつながるし、行くことで心も満たされたり、人や社会とのつながりができる、素晴らしい活動だなと改めて思います。宮田さんは審査委員長としてグランプリを決定したポイントはどういったところだったのでしょうか?
■ 宮田さん:
むすびえに受賞してもらったことは、ウェルビーイング・アワードの誇りでもあると考えているんです。
ひとつには、こども食堂は「お腹を満たす」だけではなくて、地域の「つながり」をつくっていく、というところに重要な本質があると思います。「つながり」は、全世界的に薄くなっていますよね。
子育てについても、核家族化や都市化が進むことで、かつてのように家族・祖父母・地域でみる、ということがなくなってきています。日本よりもっと少子化が進む韓国も同様な問題を抱えていますが、子どもをサポートする重圧が両親だけにいってしまい、それが結果としてシングルペアレントの貧困リスクを上げてしまっているといったことがあります。
都市化が進行し、コミュニティのあり方が変わる中、「こども食堂」の取り組みが広がることで、人と人、人と社会、そして未来ともつながる新しい形になっていくのではないかと感じます。
もうひとつは、日本が世界に誇る「食」。
「おいしさ」という価値ももちろんありますが、文化的な喜びだけではなく、栄養をとること、地産地消、また、「誰かと食べる」食によるつながり、ということが、世界に向けても重要な取り組みになっていくと感じています。
■ 知花さん:
15年間やってきた国連WFP(食糧支援)活動を通じてアフリカで出会った子どもたちは「今日食べるものがない」という状態で、食事は生命維持のためのもの、ということも多く見聞きしてきたので、食による「居場所」というのはまた違ったフェーズなのかなという気もしていたのですが、三島さんのお話を聞いて、国連WFPの活動の中でもとりわけ「学校給食プログラム」に関して、「居場所をつくるための活動、きっかけづくり」といった面もあったのかな、と感じました。
アフリカでは、家庭内で労働力とみなされる子どもたちが多くいます。学校より親のため・家のため、という価値観ですね。
ですが、「学校で給食がある」となると、保護者の方々が子どもたちを快く送り出してくれたんです。登校率が上がった結果、テストの点数・進学率・学力が上がる、ということがありました。子どもにとっては、友達に会える、勉強ができる、楽しい経験になっていて、「居場所」とは、子どもにとっても親御さんたちにとっても、世界中で大事なものだなと感じました。
大高さん:
食が居場所をつくる、というのは、状況は違っても世界で共通することなのかもしれないですね。
◆ 日々の小さな葛藤や違和感が「ウェルビーイング」への気づきに
■ 知花さん:
私自身は3歳と5歳の娘がいるのですが、あるとき
「もっと社会とつながって、自分のスキルを活かしながら生きたい」「子どもたちと一緒にいる時間は素晴らしいし大好きだけど、もっと何かできるはず」
と思い立ち、京都芸術大学へ入学し、2級建築士の資格を取得しました。
リスキリングという言葉がありますが、私の場合は「子どもたちのためにも自分が満たされるべきでは」と学びを決意して自分に投資したという経験で、個人的にウェルビーイングにつながっているなと思うことです。
家事・育児以外に行ける場所、居場所、話せる人がいることで、社会とのつながり、ダイナミックな自分でいられることが幸せだと思うんです。
「ウェルビーイング」は、ちょっとした日々の葛藤や違和感から気付きがあるものなのかな、と私は感じたのですが、…この理解で合っていますか?(笑)
■ 宮田さん:
まさに、その通りだと思います!すばらしいです。
■ 知花さん:
子育てで1日中子どもに向き合うことは本当に大変ですよね。子どもはずっと120%だけど、親も常に120%でいることは難しい。また、家以外の居場所をつくることは、親だけでは至難の業だけど、ほかに居場所がないと、子育て中はとにかく孤独を感じやすいと思います。
なので、こども食堂は、子どもにとってはもちろんですが、大人にとってもとてもいいところだなと感じます。
■ 三島(むすびえ):
「こども食堂で最後まで帰らないのはお母さんたち」だというのは、運営者の方からよく聞く話です。受け入れてくれる優しい方がたくさんいて、子どもも楽しく過ごせることが、大人にとってもほっとする場所につながっているのだと思います。
◆ 社会や学びのあり方が変化する今、「自分起点」「自分主体」見つける幸せが大事
■ 宮田さん:
むすびえの調査結果にもありましたが、「多様なつながり」があることが幸せに生きることにおいて重要、というデータは世界的にもありますよね。
これまでの社会モデルは、どちらかというと居場所を固定してきたものでした。大量消費・大量生産。みんなが同じように、学びは青年期で終えて、就職して…。
これが、少なくとも2つの方向から崩れてきました。
ひとつは「100年時代」。ひとつの組織だけではなく、第2、第3があったり、副業兼業もそうですね。ひとつの組織・居場所に吸収されるのではなく、自分が主体になって居場所をつくる、見つけていくように変化しています。
もうひとつは、学びそのものが変わってきた、ということです。一人ひとりが多様で単一ではなく、「みんなが生涯学んでいく」というのが、これからの社会のあり方になっていくのだと思います。
華僑にもとづいた日本・中国・韓国の学び感覚はハイプレッシャーで、嫌いになってしまう人も多いですが、本来、学びとは楽しいこと。ウェルビーイングや楽しさを感じながら学ぶ、ということが、居場所やつながり方の変化にもつながっていくのではないかと思います。
今回、むすびえさん、知花さんの取り組みには共感、ヒントをいただくところが多かったなぁと感じます。
◆ しなやかにつながる、多様な豊かさを見つける。
これからの「ウェルビーイング」な生き方を
大高さん:
私も「100年生活者研究所」の所長として、人生100年時代について研究しているのですが、「たくさんの好きを見つける」ことが生き生きと暮らせるポイントなのだなということは感じてきました。今日もそんなメッセージをたくさん会場の皆さんにも受け取っていただけていたら嬉しいです。
では、最後にひとことずつお願いします。
■ 知花さん:
「ウェルビーイング」という言葉は聞くようになったけど、「それって何?」という疑問がまだ多くの人にあるのではないかと思います。
社会とのつながりという意味で、私は子育てのなかで「人はひとりでは生きていけない」と実感しました。
つながりは大事。でも、つながることって大変。
それと折り合いをつけながら、どう自分らしく振る舞い、自分らしく呼吸ができるのか、どこでそれを叶えられるのかを考えていきたいと思いますし、それでHAPPYになれる、ごきげんになれる、ということがウェルビーイングなのかなと感じます。
■ 宮田さん:
今はインターネット時代で、つながらざるをえなくなったという側面があります。SNSに浸り他人との比較をしてしまうと、不幸になってしまう。相対的な比較は人を幸福にしないんですね。
そうではなく、知花さんがおっしゃったようなことを大事にして、しなやかにつながること。
この十数年、インターネット、あるいはSNSで「エコーチャンバー現象」つまり同じ価値観を持つ人のなかで長い時間を使うことに飲み込まれがちでした。それを程よく使うことは悪くないのですが、いかに「自分起点」で多様な豊かさを発見できるかということが大事ですし、まさに「居場所」とはそういうことなのだと思います。
「いるべき場所」ではなくて、つながりたいと思う場所・人。それをたくさん見つけられるといいですよね。
■ 三島(むすびえ):
こども食堂って、ごはんを食べるだけでたくさん褒められるんです。「よく食べたね、全部食べてえらい!」と、褒めてくれる人がたくさんいる場所。子どもたちは「なんか安心できる、困ったときに助けてくれそうだな」と感じられる。「居場所」を感じられることは結果的に、安定感や安心の醸成につながっているんですね。
大人にとってもそうだと思います。
私の息子はもう中学生ですが、「なに食べる?」と聞いても「うん」と質問には答えなかったり、「おいしい」の一言がなくなったり…というお年頃。ごはんを作るのは小さい頃の方が張り合いがあったなぁと思うことも正直あります。
こども食堂で「おいしい、おいしい」と食べてもらえるということが嬉しい、張り合いになる、とおっしゃる運営者やボランティアの方も多いのは、やっている方にとってもウェルビーイングな場所になっているのではないかなと思いました。
今日お話を聞いていただいた皆さんにも、近くにこども食堂があったらのぞいていただいたり、気にかけていただけると嬉しいと思っております。
出演者の皆さんは、バックステージでも「ウェルビーイングとは」「こども食堂とウェルビーイング」「個人の幸せがサステナブルなものになるには?」などを語り合い、ステージさながらに大盛り上がりでした。
ステージ後には「ウェルビーイング・アワード」のブースを訪れ、素敵な展示を拝見するとともに、「ウェルビーイングという言葉だけでなく、ウェルビーイングな取り組みを表彰することで、機運を高めたい!」というアワード設立メンバーの方の熱い想いをお伺いしました。
むすびえは、今後もこども食堂の支援を通じて、子どもも大人も、誰もがごきげんに、あたたかな「居場所」を感じられるつながりづくりに取り組んでまいります。